有機農業に関する安全農産供給センター基準
※ 以下の文中にある[考え方]とは、各項目における基本的な考え方を述べたものであり、一般的な原則や推奨すべきことが記載されている。一方、[基準]とは、各項目において満たされるべき最低要件のことである。
1.私たちの目指すもの
【安全で質の良い食べ物の生産】 安全で質の良い食べ物を量的にも十分に生産し、食生活を健全なものにする。 【環境を守る】 農業による環境汚染・環境破壊を最小限にとどめ、微生物・土壌生物相・動植物を含む生態系を健全にする。 【自然との共生】 地域の再生可能な資源やエネルギーを生かし、自然の持つ生産力を活用する。 【地域自給と循環】 食糧の自給を基礎に据え、再生可能な資源・エネルギーの地域自給と循環を促し、地域の自立を図る。 【地力の維持培養】 生きた土を作り、土壌の肥沃土を維持培養させる。 【生物の多様性を守る】 栽培品種、飼養品種、及び野生種の多様性を維持保全し、多様な生物と共に生きる。 【健全な飼養環境の保証】 家畜家禽類の飼育では、生来の行動本能を尊重し、健全な飼い方をする。
2.遺伝子組み換え技術
[考え方] 遺伝子組み換え技術により育成された品種の種子・種苗、作物体及び収穫物は、使用しない。 [基準] 生産及び加工において、遺伝子組み換え技術により育成された品種の種子・種苗、作物体及び収穫物は使用しない。
3.有機農業への転換
a.転換期間 [考え方] 転換期間とは、有機農法による作物の生産、すなわち作物生産基準(「4作物生産」及び「5水田稲作」の基準をいう。以下同じ。)に基づいた作物の生産を開始して以降の一定の期間をいう。この期間は、永続的な農業生態系を有する農場を作り出すのに十分な期間では必ずしもないが、そうした農場を作り出そうとする営みの期間である。この転換期間の最低期間を下記基準において定めるが、この期間は、農場として使用される土地の過去の使用状況を考慮して短縮又は延長しなければならない場合がある。 [基準] a-1 転換期間は、作物生産基準に基づいて作物の生産を開始して以降最低2年間とする。その後の播種又は定植した作物から転換期間が終了したものとして取り扱う。 また、果樹等の永年作物については、作物生産基準に基づいて作物の生産を開始して以降、最低3年を経過してから収穫される収穫物から転換期間が終了したものとして扱う。 a-2 休耕地や開墾地については、作物生産基準に基づいて作物の生産を開始する前の最低2年間、化学合成資材の使用その他汚染がないと明らかに認められる場合には、転換期間を必要としない。 b.転換のあり方 [考え方] 転換は、農場全体を一定期間内に行うことが望ましい。農場全体を一度に転換できない場合は、圃場単位で転換を図ることになるが、その場合には、慣行農法の圃場部分があるので、より注意が必要である。 [基準] b-1 一度転換した農場又は圃場は、慣行農法と有機農法が交互に行われないように努める。
4.作物生産
a.農場及び圃場の汚染防止 [考え方] 農場又は圃場は、外からの農薬その他の汚染を最小限にするため、適切な対策がとられている必要がある。 b.栽培作物とその品種の選択 [考え方] 栽培作物とその品種は、できるだけ当該地域の土壌や気象条件に適応し、害虫や病気に抵抗性のあるものを選択する。また、その際、生物多様性を保持することにも留意する。農場又は圃場の外部から持ち込まれる種子又は種苗は、この基礎基準に基づいて生産された作物の種子又は種苗(以下、「有機栽培種子・種苗」という)を原則とする。 [基準] b-1 有機栽培種子・種苗が入手可能な場合は、それを使用する。 b-2 有機栽培種子・種苗が入手不可能な場合に限り、慣行農法により生産され、化学合成資材で処理されていない種子又は種苗を使用することができる。 b-3 種子については、前記b-1及びb-2のいずれの種子も入手できない場合に限り、化学合成資材で処理されたものを使用することができる。 c.作物の多様性 [考え方] 多様な作物による適切な輪作と混作により、土壌の改善と肥沃度の維持・増進が可能になる。またそれにより、雑草や病害虫を減少させることができる。 d.土作りと施肥 [考え方] 堆厩肥等の有機物を土壌に還元することにより、生物相の豊かな生きた土をつくるとともに、土壌の肥沃度が維持培養される必要がある。土壌に還元される有機物の量は、土壌の腐食含有量の長期的な増加又は保持に足るものである必要がある。 土壌における重金属類及び合成化学物質類の集積は防がねばならない。 [基準] d-1 合成化学肥料は使用しない。 d-2 地域における物質循環を促進するため、出来る限り農場内、地域内の有機性資源を十分堆肥化して使用する。 d-3 下水汚泥、その他重金属汚染、化学物質汚染及び放射能汚染のおそれのある有機性資源は、使用しない。 d-4 原則として、未熟な堆厩肥や未処理の家畜糞尿は、施用しないようにする。 d-5 作物の質への悪影響を避け、環境への付加を低減するため、有機物は過剰に施用しない。 e.病害虫、雑草の管理 [考え方] 農業による環境負荷を最小限にとどめ、微生物、土壌生物相、動植物相を含む生態系を豊かにし、自然が本来有する生産力を尊重した方法により生産する。そのために、環境によく適応した品種、バランスのとれた施肥、適正な栽培密度の維持、生物相の豊かな肥沃な土壌、適切な輪作、混植・混作、共生植物の活用、緑肥・被覆植物の活用、早めの苗床準備、マルチや機械による除草などが重視される。 病害虫の天敵を守り増やすために、垣根、巣作りの場所など棲息環境を整える。 [基準] e-1 除草剤、殺虫剤、殺菌剤、その他の化学合成農薬は使用しない。 e-2 合成成長調整剤は使用しない。 e-3 生態系に不可逆的な影響を及ぼす生物、ウイルス生・菌性・細菌性の調整剤は、使用しない。 e-4 病害虫、雑草管理のために熱を用いた物理的方法は使用できる。 e-5 土壌の加熱殺菌は、他に方法がない場合に限って使用できる。 e-6 遺伝子組み換え作物は、使用しない。 e-7 別表資材リストに記載されている使用の許される資材については、前項及び本項の栽培管理に必要な資材が入手できない場合にのみ使用できる。 f.プラスチックの使用 [考え方] プラスチックの使用は、最小限に抑える必要がある。 [基準] f-1 ハウスやトンネル等の被覆資材、プラスチックマルチ、寒冷紗及びサイレージネットとして、ポリエチレン、ポリプロピレンその他のポリカーボネイト製品の使用は許容されるが、塩化ビニール製品の使用は許容されない。 f-2 プラスチックは、その使用後において土壌から取り除くとともに、農地で燃やさず、農場外で適切に処理するようにする。 g.景観 [考え方] 農地及びその周辺の生態系の多様性を保持し、自然景観に調和した農場である必要がある。圃場の周囲、境界及び通路は、地被植物を栽培し、生垣を設けるような工夫が望まれる。
5.水田稲作
a.生産 [考え方] 水田稲作は、高い生産性と連続した作付けを可能にする米の生産方法である。生産された米は、栄養価と貯蔵性にすぐれ、主食の地位を占め、食糧自給に大きく貢献している。水田は灌漑により、後背地として広がる山地や森林などの環境から絶えずゆるやかに水と養分を得ている。このことが、水田の土壌を肥沃にし、その状態を良好に保ち、水稲の連作を可能にしている。副産物である藁、籾殻、糠及び小米は、畑作や畜産に有効に利用される。 水田は、収穫期以降の落水期間においては畑地として裏作利用が可能となる。また、水田における水の利用は、水資源の涵養や治山・治水の機能を持つ。 [基準] a-1 水田稲作の生産基準は、前記4の作物生産の基準に準ずる。 a-2 また、以下の項を補充する。 b.病害虫及び雑草の管理 [考え方] 雑草の管理には、二度代掻き、初期除草、深水管理が主として有効である。また、病害虫、雑草の管理には、鯉や鴨その他小動物の利用も可能である。 c.乾燥 [考え方] 天日乾燥が望ましい。また、機械乾燥の場合は、低温でゆっくり時間をかけて乾燥する。 d.籾擦りと精米 [考え方] 有機米の籾擦りと精米においては、非有機米が混じらないようにする。
付 則
化学合成農薬の使用について [考え方] 有機農業とは、ここまでの基準内容に表されているように、化学合成された農薬や肥料を一切使用せずに3年以上を経た農場において営まれる農業であることがその前提であるが、誰もが最初からそのレベルに達しているわけではない。十分に肥沃な土壌が出来上がるまでには長い年月が必要であるし、その過程においては病気や虫の発生に見舞われることも少なくはない。そのような場合においても極力化学合成された農薬や肥料に頼ることなく、危険を回避する努力をしなければならないが、それでも作物が全滅してしまう、あるいは周辺の圃場に甚大な影響を及ぼすおそれのあるときには、しかるべき手続きを経て、この「有機農業の基準」では禁止されている手段を講じざるを得ない場合がある。 a.事前の相談の原則 何らかの理由で、化学合成された農薬を使用する場合には、原則として事前にセンター担当者に状況の報告、及び使用についての相談をする。 b.緊急を要する場合 どうしてもセンターに相談する時間的・物理的余裕がない場合には、使用後すみやかに報告する。 c.センターと生産者だけで判断できない場合 生産者・消費者・センターの三者によるしかるべき機関を設け、協議して決める。 d.情報の開示 化学合成された農薬を、予定外に使用せざるを得なかった場合には、会員に対してその事実を報告しなければならない。